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咳の基礎知識 (呼吸器内科)

ここでは、咳(せき)が出始めたらどうしたらいいか?咳が止まらないときにどのように考えるか?などの疑問や不安の助けになるように、咳についての情報をお送りします(秋葉直志)。

はじめに

咳は持続期間が3週間以内の急性咳嗽(きゅうせいがいそう)、持続期間が3週間以上から8週間以内の遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)、持続期間が8週間以上の慢性咳嗽(まんせいがいそう)に分けて原因や対応を考えます。 

咳の原因は風邪(かぜ)などの急性上気道炎、肺炎、結核、肺がん、喘息、アレルギー、副鼻腔炎、逆流性食道炎、薬剤内服など、多様な疾患のために起こります。

咳が出始めたら

1咳(せき)はありふれた症状です。咳の原因はさまざまで、多くは風邪(カゼ)やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などのウイルスによる急性上気道感染により発生する症状です。しかし、症状を聞いても風邪(カゼ)とインフルエンザと新型コロナウイルス感染症の区別は困難です。

風邪は発熱、咽頭痛、鼻汁、咳と痰(たん)の症状があると診断されますが、特別な検査はありません。風邪のウイルスに効く薬はありませんが、風邪は特別な治療をしなくても1−2週間で自然に治りますから、無理をせず、安静にして水分を良くとっていれば問題ありません。

インフルエンザは、効果のあるタミフル(1カプセル1日2回5日間)といった薬がありますから、迅速診断を受けて、インフルエンザ陽性なら薬の処方を受けます。

新型コロナウイルス感染症の症状は、無症状例から重症化例と様々ですが、通常の風邪やインフルエンザと同じで、発熱や咳や痰(たん)といった上気道症状が中心です。その他には、全身倦怠感(だるさ)や嗅覚異常・味覚異常、下痢などです。新型コロナウイルスが無症状なら本人も周囲の人も気づきませんが、有症状なら診断を受けないとどうしていいか分かりません。また、重症化のリスクのある方はラゲブリオ(4カプセル1日2回5日間)の内服が可能です。

風邪 診断検査(−) 対症療法
インフルエンザ 抗原検査(+) 薬物療法
新型コロナウイルス感染症 抗原検査(+)、PCR検査(+) 薬物療法

風邪の診断で体調が悪くないなら、マスクをして通学や通勤しても問題はありません。しかし、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症は感染力が強く、登校や出勤は控えなくてはならないでしょう。

咳とは

咳(せき)は気道内の分泌物や誤って気管に入った異物を排除する仕事を行っており、咳は自分の体を守るための重要な生体防御反応です。咳の発生は上気道から迷走(めいそう)神経を介して無意識に出る咳嗽(がいそう)反射と、意識的に大脳が関与し咳衝動のある咳嗽反応があります。

防御反応としての咳を反射的咳嗽(がいそう)と呼びます。人が意図的に咳をするのを随意的咳嗽といいます。また気道に炎症などの病変があって、この病変のために気道が刺激されて起こる気道の刺激で発生する咳嗽もあります。

用語について:咳(せき)と痰(たん)は、それぞれ咳嗽(がいそう)、喀痰(かくたん)ともいいます。

咳嗽発生の機序
1.反射的咳嗽 痰や異物が気道にある時に、脳の脳幹の反射によって起こる咳嗽
2.随意的咳嗽 人が意識的に行う咳嗽
3.気道の刺激で発生する咳嗽 気道のイガイガ感によって起こる咳嗽であり、多くは病的咳嗽である

期間による咳の分類

咳(せき)はその持続期間により分類することが有用です。持続期間で分類することにより、咳の原因疾患を大まかに推定することができるからです。

咳の多くは上気道ウイルス感染である風邪・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症などの感染症による咳です。風邪やインフルエンザなどの咳は、多くは1−2週間で治りますが、その後に咳が長引くこともあります。

これらの上気道ウイルス感染は頻度が高いので、3週間未満の持続期間の咳の多くは気道の感染症が原因です。そして持続期間が3週間以内の咳を急性咳嗽(きゅうせいがいそう)と呼びます。ただし、急性咳嗽でも肺炎、肺がん、間質性肺炎、肺結核、肺塞栓症などの重症疾患の可能性もありますから注意が必要です。


右肺がん

右肺炎

右肺結核

一方、8週間以上持続する咳は、感染症による咳であることは少なくなります。この持続期間が8週間以上の咳を慢性咳嗽(まんせいがいそう)と呼びます。ただし、結核や非結核性抗酸菌症の咳は感染症ですが8週間以上持続します。

急性咳嗽と慢性咳嗽の間の、持続期間が3週間以上、8週間未満の咳を遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)と呼びます。遷延性咳嗽の多くは感染症による咳と考えられますが、感染症以外が原因の咳の可能性も考えておかないといけません。

咳嗽の分類(持続期間による分類)
1.急性咳嗽
(3週間未満)
多くは風邪などの気道の感染が原因
2.遷延性咳嗽(3週間以上で8週間未満) 気道感染が原因の事もあるが、感染以外の原因も考慮が必要
3.慢性咳嗽
(8週間以上)
感染が原因であることはまれ

痰による咳の分類

咳(せき)といっても、痰(たん)がほとんど出ない咳と、咳の出るたびに毎回痰が出るような咳もあります。前者は乾性咳嗽(かんせいがいそう)と呼び、咳の治療を考えますが、後者は湿性咳嗽(しっせいがいそう)と呼び、咳の治療というより痰の治療を考えなくてはなりません。このように咳は喀痰の有無によっても分類されます。

咳嗽の分類(喀痰の有無による分類)
1.乾性咳嗽
(喀痰は伴わないか少量)
咳嗽の治療が必要
2.湿性咳嗽
(咳嗽のたびに喀痰を伴い、喀痰を喀出するために出る咳嗽)
咳嗽の治療よりも、喀痰を減らす治療が必要

風邪や肺炎などの急性咳嗽では多くは湿性咳嗽を呈します。
副鼻腔気管支症候群(SBS)や慢性気管支炎でも湿性咳嗽を呈します。

急性咳嗽の原因

咳(せき)が出た時に、最初から肺がんや肺結核を心配する方は少ないと思います。しかし、せき(咳)が1週間、2週間、3週間と長引くに従って、肺がんなどの重い病気を心配するでしょう。

急性咳嗽の原因疾患は多岐にわたりますが、頻度が高いのはウイルス感染による上気道炎です。実際に持続期間が3週間未満の急性咳嗽の原因は、風邪(カゼ)やインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの上気道ウイルス感染症が原因の事がほとんどです。

急性咳嗽で注意する疾患・症状

咳(せき)がある場合には、そのまま様子をみていていい場合もありますが、重篤な疾患が原因の場合、または重症な状況の時は、早期に対応しなくてはなりません。

3週間未満の持続期間の咳(せき)がある場合、急性咳嗽(がいそう)と呼びますが、緊急を要する疾患(肺炎、肺がん、間質性肺炎、肺結核、肺塞栓症など)や緊急を要する症状(発熱、呼吸困難、血痰、胸痛、体重減少など)があれば、迅速に検査(診察、採血検査、胸部X線検査や胸部CT検査、喀痰検査など)を行います。そして検査に基づき診断を行い治療が必要です。

咳嗽の初期治療で注意するべき疾患と症状
咳嗽を呈する急を要する疾患 肺炎、肺がん、間質性肺炎、肺結核、肺塞栓症など
咳嗽を呈する注意する症状 発熱、呼吸困難、血痰、胸痛、体重減少など

急性咳嗽の対応

急性咳嗽でも、上記のような緊急性がなく、感染症を疑う症状(発熱、鼻汁、くしゃみ、鼻閉、咽頭痛、嗄声(させい)、頭痛、耳痛、全身倦怠感など)や周囲に同様の症状の人がいたのであれば、感染性咳嗽(がいそう)を疑います。

インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の可能性もありますので、検査で確認した方がいいでしょう。発熱、鼻汁、くしゃみ、鼻閉、咽頭痛などの症状が中心なら、風邪(カゼ)を疑い、咳や痰、鎮痛薬などの対症療法のみとし、抗菌薬は用いません。

対症療法で改善がなければ、検査(診察、採血検査、胸部X線検査や胸部CT検査、喀痰検査など)を行い、他の疾患があるかどうか確認する必要があるでしょう。

慢性咳嗽の原因

咳(せき)の持続期間が3週間を超える、または8週間以上になると感染症以外の疾患が増えてきます。

とはいえ、肺炎、肺がん、間質性肺炎、肺結核、肺塞栓症などの重症の疾患を否定することは困難です。このような病気が潜んでいないかを確認するために、診察や胸部レントゲン検査や胸部CT検査を受けることが必要です。

慢性咳嗽の原因としては、喘息・咳喘息、アトピー性咳嗽、感染後咳嗽、鼻炎・副鼻腔気管支症候群(SBS)、胃食道逆流症(GERD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがあげられます。

咳嗽の持続期間と原因疾患
急性咳嗽(3週間未満) 原因として最も頻度が高いのは上気道ウイルス感染症である。
遷延性咳嗽(3週間以上で8週間未満)、
慢性咳嗽(8週間以上)
原因としては、咳喘息や喘息、アトピー性咳嗽、感染後咳嗽、鼻炎や副鼻腔気管支症候群(SBS)、胃食道逆流症(GERD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがある。

慢性咳嗽の特徴と治療

8週間以上、咳が持続する慢性咳嗽(がいそう)を起こす疾患にはそれぞれ特徴があります。

咳を起こす疾患の特徴
喘息・咳喘息 夜間や早朝の悪化、症状の季節性
アトピー咳嗽・喉頭アレルギー 症状の季節性、咽頭・喉頭のイガイガ感や掻痒感
副鼻腔気管支症候群(SBS) 慢性副鼻腔炎の既往、膿性痰
胃食道逆流症(GERD) 胸やけなどの食道症状、食後、体重増加
感染後咳嗽 上気道炎が先行したエピソード
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎 喫煙者の湿性咳嗽
ACE阻害薬 服用開始後に始まる
各疾患の治療法
喘息・咳喘息 気管支拡張薬、吸入ステロイド薬
アトピー咳嗽・喉頭アレルギー ヒスタミンH1受容体拮抗薬
副鼻腔気管支症候群(SBS) マクロライド系抗菌薬
胃食道逆流症(GERD) プロトンポンプ阻害薬(PPI)、またはヒスタミンH2受容体拮抗薬、消化管運動機能改善薬
感染後咳嗽 対症療法
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎 禁煙、気管支拡張薬
ACE阻害薬 薬剤中止

広義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽の治療

3週間以上の遷延性咳嗽(がいそう)、または8週間以上の慢性咳嗽の場合には、診察や検査(診察、採血検査、胸部X線検査や胸部CT検査、喀痰検査など)で原因を調べます。

原因が診断できた場合は、広義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽と診断します。広義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽は比較的容易に原因が特定できる咳嗽であり、対応する治療を行います。原因疾患としては、肺がん、肺炎、結核、間質性肺炎などがあり、これらに対して、検査を進め治療を行っていきます。

狭義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽の治療

3週間以上の遷延性咳嗽(がいそう)、または8週間以上の慢性咳嗽の場合には、診察や検査(診察、採血検査、胸部X線検査や胸部CT検査、喀痰検査など)で原因を調べます。

診察や検査などで原因が診断できない場合は、狭義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽と診断します。狭義の遷延性咳嗽・慢性咳嗽は比較的容易に原因が特定できない咳嗽であり、代表的な原因疾患の可能性としては以下の疾患が挙げられます。

1.喘息・咳喘息

喘息・咳喘息は気管支拡張剤が有効ですので、この場合は吸入ステロイド薬(+長時間作用性β2刺激薬)(ICS(+LABA))を使用し、経過観察を行います。

2.アトピー性咳嗽・喉頭アレルギー

アトピー性咳嗽・喉頭アレルギーを疑ったときは、ヒスタミンH1受容体拮抗薬を2週間使用し経過観察を行います。

3.胃食道逆流症(GERD)

胃食道逆流症(GERD)を疑ったときは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を4-8週間内服し、経過観察を行います。

4.感染後咳嗽

感染後咳嗽を疑ったときは、対症療法として、咳嗽治療薬、喀痰治療薬を2週間使用し、経過観察を行います。

5.副鼻腔炎/副鼻腔気管支症候群(SBS)

副鼻腔炎/副鼻腔気管支症候群(SBS)を疑ったときは、マクロライド系抗菌薬を8週間内服し、経過観察を行います。

6.慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎

喫煙を原因とする疾患であり、禁煙が第一です。また、気管支拡張薬が用いられます。

7.ACE阻害薬など内服

ACE阻害薬など内服が原因と疑ったときは、内服を中止または変更し、経過観察を行います。

咳症状の検査

咳(せき)の原因は多岐に渡ります。その為に、咳があるときに行われる検査も多岐に渡ります。

咳嗽の検査
1.血液検査 白血球、CRP:炎症所見
末梢血好酸球数、総IgE値、特異的IgE検査(View39):喘息やアトピー性咳嗽で上昇
感染症の血清学的検査
2.喀痰検査 一般細菌検査:通常の細菌検査
抗酸菌検査:結核、非結核性抗酸菌症の検査
細胞診検査:肺癌細胞の検査、炎症性の検査で好酸球、白血球比
3.画像診断 胸部・副鼻腔X線検査
胸部・副鼻腔CT検査
4.肺機能検査 肺活量、1秒率:喘息や咳喘息で閉塞性障害(息の吐きにくさ)
β刺激剤使用で肺機能の可逆性検査:閉塞性障害の改善
5.呼気FeNO濃度検査 呼気中の一酸化窒素濃度測定:30ppb前後以上は喘息や咳喘息を疑う
6.内視鏡検査 胃食道逆流症(GERD)における逆流性食道炎の検査

咳の治療薬

通常の咳(せき)の治療には鎮咳薬(ちんがいやく)を用います。また、痰がある場合は、去痰薬、喀痰調整薬を用います。

喘息や咳喘息が原因の場合は、気管支拡張薬としてテオフィリン薬、β刺激薬、吸入抗コリン薬、吸入ステロイド薬(内服ステロイド薬)、そしてこれらの配合薬の吸入やアレルギー薬を用います。アレルギー性疾患では、吸入ステロイド薬(内服ステロイド薬)やアレルギー薬を用います。

肺炎では抗菌薬を、胃食道逆流症(GERD)では消化性潰瘍治療薬などを用います。

一般の咳嗽治療薬
中枢性鎮咳薬 麻薬性 リン酸コデイン、コデインリン酸塩
非麻薬性 メジコン、デキストロメトルファン
漢方薬 麦門冬湯(ばくもんどうとう)、清肺湯(せいはいとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
湿性咳嗽治療薬
喀痰調整薬 ムコダイン、カルボシステイン、ムコソルバン、アンブロキソール
喘息、咳喘息
気管支拡張薬 テオフィリン薬 テオドール、テオロング
β刺激薬 サルタノール(短時間作用性吸入)、メプチン(短時間作用性吸入)、ホクナリンテープ(貼付)、スピロペント(長時間作用性吸入)
吸入抗コリン薬 アトロベント(短時間作用性吸入)、スピリーバ(長時間作用性吸入)
経口ステロイド薬 プレドニン
吸入ステロイド薬(ICS) キュバール、フルタイド、パルミコート、オルベスコ、アズマネックス、アニュイティ
吸入ステロイド薬+長時間作用性β2刺激薬配合薬
(ICS/LABA配合吸入薬)
アドエア、シムビコート、フルティフォーム(吸入)、レルベア
吸入ステロイド薬+長時間作用性抗コリン薬+長時間作用性β2刺激薬配合薬
(ICS/LAMA/LABA配合吸入薬)
テリルジー
抗アレルギー薬 ヒスタミンH1
受容体拮抗薬
アレグラ、アレジオン、ザイザル、ビラノア
ロイコトリエン受容体拮抗薬
(LTRA)
オノン、シングレア、モンテルカスト
トロンボキサン阻害薬 ドメナン、ブロニカ、バイナス
Th2サイトカイン阻害薬 アイピーディ
アトピー咳嗽、喉頭アレルギー
経口ステロイド薬 プレドニン
吸入ステロイド薬(ICS) キュバール、フルタイド、パルミコート、オルベスコ、アズマネックス、アニュイティ
ヒスタミンH1
受容体拮抗薬
アレグラ、アレジオン、ザイザル、ビラノア
マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、百日咳
抗菌薬 レスピラトリーキノロン クラビット、レボフロキサシン、アベロックス、ジェニナック
マクロライド系抗菌薬 エリスロシン、クラリス、ジスロマック、アジスロマイシン

他の肺炎にも抗菌薬を使用します。

胃食道逆流症(GERD)
消化性潰瘍
治療薬
ヒスタミンH2
受容体拮抗薬
ガスター、ファモチジン、ザンタック
プロトンポンプ阻害薬(PPI) タケプロン、ランソプラゾール、パリエット、ラベプラゾール、タケキャブ
消化管運動機能改善薬 プリンペラン、セレキノン、ガスモチン、アコファイド
漢方薬 六君子湯(りっくんしとう)
副鼻腔気管支症候群(SBS)
マクロライド系抗菌薬 エリスロシン、クラリス、ジスロマック、アジスロマイシン

痰とは

痰(たん)とは下気道(肺)で過剰に産生された分泌物が、咳によって口腔内から体外に排出された物質です。

通常の状態では、下気道からは1日約100ml気道分泌物が産生され、これらが下気道を保護しています。気管・気管支など気道の粘膜にある線毛上皮細胞の線毛運動は、粉塵や細菌などの微生物を含んだ粘液を中枢の咽頭へと移動し、その後、無意識に飲み込まれます。これは吸い込んだ空気中の細菌やウイルスなどの異物を排除する働きです。異物は粘液に捕捉され、線毛運動によって排泄されるのです。

痰が出るのは、気道分泌物の過剰生産か嚥下機能の低下です。気道分泌物は気道の粘液分泌細胞から分泌されますが、外界から吸入した様々な物質の刺激や、気道の炎症や腫瘍により過剰に分泌されます。このため通常の処理では間に合わずに痰が出るのです。また、飲み込む機能が低下(嚥下機能障害)して痰が増加することがあります。

痰の特徴と疾患

痰(たん)は様々な様相、色を呈します。また、疾患により様々の痰が出てきます。

痰の性状と原因
粘液性(ねばねば) 気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息
漿液性(さらさら) 急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、肺水腫
膿性(うみ)
・緑色
・オレンジ色
・鉄ザビ色
・苺ゼリー状
・黒色・褐色
・鮮紅色・黒褐色
気道感染症、肺炎
・緑膿菌
・レジオネラ
・肺炎球菌
・クレブシエラ
・真菌
・血痰・喀血

血痰と喀血

気道で出血が起こり、これが外界に喀出されると、痰に血液が混じり血痰と呼ばれます、血液の量が多いと喀血という症状になります。

血痰の原因として肺がんが有名ですが、頻度として多いのは急性上気道炎(カゼ)、急性下気道炎(肺炎)が多く、その他に気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺がん、気管支拡張症などがあります。

感染性咳嗽の分類

感染症とはウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入して増殖し、発熱や下痢、咳などの症状がでることをいいます。

咳(せき)の持続期間が3週間未満では、感染症による咳(せき)が多いことを前述しました。感染症による咳でも、胸部X線や胸部CT検査で異常が認められるときの咳は、広義の感染性咳嗽と呼びます。一方、胸部X線や胸部CT検査で異常が認められないときの咳は、狭義の感染性咳嗽と呼びます。

狭義の感染性咳嗽といっても、現時点で発熱が続いて、局所に炎症が残っている時の咳(せき)は活動性があるとして、活動性のある狭義の感染性咳嗽と呼びます。また、炎症が治ってしまった後にも続く咳を感染後咳嗽と呼びます。

広義の感染性咳嗽
胸部X線写真、胸部CT検査で肺炎、結核などの咳嗽の原因となる感染性陰影を認める。
比較的容易に原因が特定できる咳。

狭義の感染性咳嗽
胸部X線写真、胸部CT検査で肺炎、結核、腫瘍などの咳嗽の原因となる陰影を認めない、比較的容易に原因が特定できない咳。

発熱、鼻汁、くしゃみ、鼻閉、咽頭痛、嗄声、頭痛、耳鳴、全身倦怠感などを伴うか先行し、時には周囲に同様の症状の人がいるため、感染に伴うことが示唆される咳。実際はウイルスや細菌などの原因微生物による気道感染症(上気道炎、気管・気管支炎、肺炎)の炎症による咳。

活動性のある狭義の感染性咳嗽
狭義の感染性咳嗽のうち、日にちがたっているが、原因微生物がまだ上気道や肺に残っていて活動している。

感染後咳嗽
狭義の感染性咳嗽のうち、日にちがたって原因微生物が既にほぼ治ってうる状態だが、咳が後遺症として残っている状態。つまり、活動性のない狭義の感染性咳嗽。

感染性咳嗽の分類
1.広義の感染性咳嗽
(比較的容易に原因が特定できる咳嗽)
感染症による熱などの炎症(+)、
胸部X線・胸部CT検査異常(+)
2.狭義の感染性咳嗽
(比較的容易に原因が特定できない咳嗽)
感染症による熱などの炎症(+)、
胸部X線・胸部CT検査異常(−)
2.狭義の感染性咳嗽 @ 活動性のある狭義の感染性咳嗽 現在も炎症(+)
A 感染後咳嗽 以前に炎症(+)

咳喘息

咳喘息は、喘息疾患実践ガイドライン2023によると、咳以外の呼吸困難や喘鳴(ゼーゼーする症状)がないのが特徴の疾患です。成人の慢性咳嗽の半数を占める頻度の高い疾患です。

咳喘息の特徴としては、気道過敏性があり、気管支拡張剤(β刺激薬など)が有効です。治療は喘息と同様で吸入ステロイド薬(ICS)が中心です。咳喘息の3割が喘息に移行すると言われており、吸入ステロイド薬(ICS)を早期に使用することは、喘息移行を減らす可能性があります。

咳喘息の診断基準としては、8週間以上の喘鳴のない咳が持続し、かつ、気管支拡張薬(β刺激薬など)が有効であること。また、参考としては、末梢血や痰の好酸球が多い、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)が高値であり、気道過敏症があり、また、咳には季節性や日内変動、夜間や早朝に多いことです。

咳喘息は英語で咳亜型喘息(cough variant athma)と言われています。これは定型的な喘息とは異なるが、喘息の一種という意味であり、日本のガイドラインの喘息と咳喘息を異なる疾患と捉えていることとニュアンスが異なります。咳喘息は早期の喘息、あるいは喘息前段階のような疾患なのでしょう。一つの疾患グループと考えていいように感じます。

咳喘息と喘息の違いは何でしょうか。喘息は気管支が狭くなり、喘鳴(ぜいめい:ゼーゼーいう)が起こり、呼吸が苦しくなる病気ですが、咳喘息では、気管支は細くならなくて、喘鳴は起きませんが咳は出ます。両者ともに、気管支の慢性炎症と気道過敏性が起きているのですが、両者の違いは、咳喘息では気道が細くならない、喘鳴が聞こえない、呼吸困難は出ないということでしょう。

このように考えると、咳喘息は軽症の喘息と考えると理解しやすいと思います。また、咳喘息の治療も喘息に準じて行います。

アトピー性咳嗽

アトピー性咳嗽は、喘息疾患実践ガイドライン2023によると、中枢気道に限局した好酸球性気道炎症です。中枢気道とはのどや気管、太い気管支を指しています。また好酸球性というのは、アレルギーの関与を示しており、中枢気道にアレルギー性の慢性炎症が起きている状態でしょう。アトピー性咳嗽は、喘息や咳喘息とは異なり、末梢気道(比較的細い気管支)には問題ないということです。

アトピー性咳嗽は、中年の女性に多く、のどのかゆい感じ、イガイガ感が特徴です。呼吸機能は正常で、呼吸音にも異常はありません。呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は上昇します。

ヒスタミンH1受容体拮抗薬とステロイド薬が有効で、気管支拡張薬(β刺激薬など)は無効です。喘息への移行はないと考えられており、症状軽快後には薬物を速やかに中止可能です。逆に症状軽快後の薬物の長期投与は副作用の点からも避けなくてはなりません。

アトピー性咳嗽の診断は、喘息疾患実践ガイドライン2023によると、3週間以上の咳嗽が持続し、気管支拡張薬(β刺激薬など)が無効、アトピー素因があり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とステロイド薬が有効の4つの条件を満たすことです。

  喘息 咳喘息 アトピー性咳嗽
特徴 喘鳴、発作 のどのかゆい感じ
イガイガ感
病変部 中枢から末梢気道 中枢から末梢気道 末梢気道
気管支拡張薬 効果 (+) (+) (−)
ステロイド薬 効果 (+) (+) (+)
ヒスタミンH1受容体拮抗薬 効果 (±) (±) (+)
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO) 上昇 上昇 正常
参考文献)
  • 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン メディカルレビュー社 2019
  • 2022ポケット呼吸器診療 シーニュ2022年
  • 今日の治療薬2023 南江堂2023年
  • 新呼吸器専門医的テキスト改訂第2版 南江堂2020
  • 喘息診療実践ガイドライン2022 日本喘息学会 協和企画2022
  • 喘息診療実践ガイドライン2023 日本喘息学会 協和企画2023
  • 喘息予防・管理ガイドライン2021 日本アレルギー学会 協和企画2022

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